第30章 寂しさは酒と呑み込む【刀剣 長曽祢虎徹】
「冷えるぞ。主」
頭上から降ってくるのは、待ち焦がれた人の声。
「そね、さん…」
「長曽祢虎徹、只今帰還した」
私に向かって膝を折り、両手を畳について頭を下げる彼。
三十路近い歳の私には、こんな行為は『歳を考えろ‼』と『雅じゃない‼』と歌仙あたりに叱られそうだが、込み上げる嬉しさに思わず飛び付いた。
勿論、彼はしっかりと抱き止めてくれる。
「そねさん。遅いよ…。96時間、微妙に過ぎてる」
「悪い。湯呑みをしてからと思ってな」
うずめていた顔をあげれば、
「久し振りに主に会えるからな」と彼は微笑む。
「待たせた詫びに、主を甘やかしてやろう」と。
「俺も一緒にいいか?」
縁側の徳利を指差すそねさんに、
「もちろん」
と、返事をして二人で雪を見上げた。
ハラハラと雪が舞う夜空に月が綺麗だ。