第3章 半分こ【hq 山口忠】
「学校、馴れた?」
彼の問いかけにコクリと頷く。
「その女子高に受かるなんて凄いよね‼さすが結依ちゃん」
隣の椅子に置いた学校指定の鞄を指差して嬉しそうに笑う彼に、私は首を横に振る。
「たまたまだよ」
「そんな事ないよ。結依ちゃんの努力だよ」
恥ずかしげもなく口にされた言葉に、頬が熱くなって、ブンブンとまた首を横に振った。
「た、忠くんはどう?」
「僕も馴れたけどさ…」
はぁーと彼がため息を吐く。
「最近、やたら女子に話しかけられると思ったら、ツッキーの事ばっかり聞かれるんだよね。ツッキーの機嫌が悪くなるから辞めて欲しいな…」
『心底困った』というように眉を下げる忠くんだけど、私の胸中は複雑だ。
そうだよね。
烏野は共学だもんね。
今は月島くんの事が気になって、忠くんに話しかけている女の子達も、
いつか…忠くんの良さに気が付いて、想いを寄せてしまったらどうしよう。
その時、忠くんが私を選んでくれなかったらどうしよう。
でも、そんな事言ったら、さすがに重いかな?
モヤモヤと巡る思いを、ゴクンと飲み込むと、
「そんな顔しないでよ」
と忠くんが、私の顔を覗き込んだ。
「ごめんね。変な事言っちゃったかな?僕は、幼稚園からずっと結依ちゃんしか見てないからね」
思いも掛けない言葉に、目を丸くする。
「覚えてない…かな?幼稚園のとき、『結依ちゃんと結婚する』って、言ってたでしょ。あれ、今…でも、本気だからね」
顔を赤くして話す彼につられて、私の頬もさらに熱くなった。
「だからね。安心して」
再び覗き込まれた顔に、コクリと頷く。
「冷めちゃうよ。食べよ」
彼に促されて、目の前のポテトに手を伸ばす。
私が好きなカリカリのポテトを私が食べやすい様に寄せてくれる忠くん。
ちょっとナヨナヨとして、なんとなく頼りない印象があるらしい彼だけど、
私からしたら、全然そんな事ない。
今だって、私が不安にならないように、真っ直ぐに想いを伝えてくれた。
いいんだ。
忠くんの良さは、私が知ってればいい。
誰にも気づいて欲しくない。
幼い日の子供じみた約束を思い出して、
まだ遠い彼との将来に、
少しだけ、想いを馳せた。