第11章 才華。
「千代」
「⋯⋯ 」
「お前の居場所は此処ではない」
「では、何処でしょう?」
「俺の隣だ」
「ふふ、っふふあはははっ隣?右も左も埋まっていらっしゃるでしょうに」
視線も合わせない。
「貴方のようなお方でも、御冗談を仰るのですね」
ちらりと、向けられた瞳。
それは、酷く冷たいだけのものだった。
「貴方の妃は誰ですか?」
「⋯⋯⋯⋯」
「貴方の妃は栗花落様ですよ、貴方の宰相は霄ですよ、お戻りください貴方が心安らぐ場所へ」
身体が言うことを効かない。
「私の居場所は、貴方の隣ではありません。あるとしたら、藍色の空に浮かぶ月ですから」
違う。
どうにか出来る方法を知っているからこの娘はどうにも出来ぬと言う。
踏ん張り睨む。
「御託はいい、帰るぞ千代」
「はぁ、困った者ですね」
千代は針を置いて立ち上がる。
戩華の前に立つと手を伸ばす、それを見て払う。
「二度も同じ手を食らうと思ったか」
「本当に、この世界は綻んでるのですね、あなたがその調子なら栗花落様もでしょう?困った人達ですね」
「帰れ」
「ですが今度は、確実に」
微笑む千代。
「千代、俺が何も学んでいないと思ったか?」
瑠花が立ち上がると、戩華は千代を抱き抱える。先程の子供のように小脇に抱えてニヤリと。
「言っただろう?取り来ただけだ。」
「なっ!」
「じゃぁな、瑠花。世話になったな」
「許すと思っているのか」
脱兎の如く駆け抜ける戩華、千代は吐きそうになり戩華を見上げるが清々しいほど罪悪感はなさそう。
此処を出たとしても居場所など無いのは事実だと言うのに⋯。
屋敷の門が見えると戩華は立ち止まり瑠花と呼ぶ。
「荷物は後で取りに来る」
頭痛がする。
戩華と怒鳴る声に千代は瑠花に手を伸ばすが、届かぬまま屋敷を後にした。