第10章 彩稼。
「あら、戩華よくここがわかりましたね」
「栗花落から連絡が来たからな」
「まぁ!それで栗花落様は?」
「今晩お前が帰らなければ旺季にチクると」
千代は珍しく複雑そうな顔をしていた。まずい。
そう。
旺季は恐らく蒼姫の件で戩華と劉輝に怒っているのに⋯また、旺季をつつかれたら⋯
戩華は千代の前に立ち、顔を上げさせる。
「ふん、てっきりあの男の所に行ったのかと思ったがな」
「⋯⋯あぁ、貴方が消さ申していた浮気者とは月の事でしたか」
邵可は千代の言葉に驚く。
月!?まさか、藍家の?!
「月からは、楸瑛様と、龍蓮様をよろしくと書かれていただけです。」
「⋯」
「嘘ではございませんよ。それに、もう連絡はとりませんよ貴方が嫌がりますからね」
鳳珠は後味が悪い二人の会話に喉に小骨がつっかえた感覚になる。
何故か、この、戩華という人物も同じように眉間を寄せていた。
「⋯はぁ⋯⋯」
すらりと、立ち上がると上着をてきぱきと着て微笑む。
それは、いつもの。妃の笑顔。
「黎深、お願いがあるの、気が向いたら聞いてくれますか?」
「へ?私、ですか?はい、はい!」
千代はくすくすと笑って耳打ちをする。
黎深の顔は険しくなるだけ。
そろりと離れては小指を差し出す。
「さぁ、千代姉様とのお約束です、はい」
「っ⋯⋯⋯でき、いく、いくら姉上の願いでもお受けできません」
邵可や鳳珠は驚いた。あの、黎深が断っている事に。
千代は目を細めて小さく、そう、と呟くと黎深の頭を撫でていた。
「では、私の子供たちを、たまには愛してあげて下さいね」
悲しげに微笑むと、部屋を出ようとする。
戩華に、先にいにますよと告げ出ていく。
ふんぞり返り面白くなさそうな顔をした戩華は黎深に何を言われたと視線を送る。
「⋯⋯⋯姉上は誰が幸せにするんですか、兄上」
その言葉に額を抑えた。
少なくとも、この部屋には居ないのだろう。