第1章 始まり──10年前
震えながら話す少女に、有希子は少し考え込んだ。家に置くのは構わないけれど、この家の家主は優作だ。優作がどう言うか……。それに、このことをどう説明すべきなのか……。
と、少女が口を開いた。
「あの……。有希子さん」
「なぁに?」
有希子が訊くと、少女は勢いよく頭を下げた。
「ここに置いてください、お願いします!」
「いいんじゃないか?」
少女に応える声がした。声のした方を振り向くと、──優作が立っていた。
「あなた!?」
「えっ……」
少女はぎょっとしつつ椅子から立ち上がった。
「ウチに置くのは構わないんだが、君より3つくらい下の息子がいる。それでも構わないかい?」
優作がにっこり笑いながらそう言うと、少女は生真面目に頭を下げた。
「じゃあまずは君の名前から教えてくれるかい?」
優作に問われ、少女はこくっと頷いた。
「私は……秋ノ宮瀬里奈と言います」
「瀬里奈ちゃんだね?」
優作が名前間違いのないように確認をする。少女が頷くのを待ってから二の句を継いだ。
「君が後から来たということがバレる可能性があるから、養子縁組をしたとしても公にするのはあまり得策ではないな。もちろん、転校の手続きもしよう」
優作がそう言うと、少女──瀬里奈はパッと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!」
瀬里奈がそう言った時、3人が集っていたリビングに幼い少年が歩いて来た。
「父さん母さん……?何してんだよ」
「あら新ちゃん。ちょうどよかった、この子今日からウチで預かるから」
有希子があっさりとそう言うと、幼い少年──新一はぎょっとした。
「預かるって……」
「ご、ごめんなさい……。今日からよろしくね、新一君」
瀬里奈が困ったようにそう笑うと、新一は大きくため息をついたが、それ以上何も何も言わなかった。