第3章 城壁と期待
結局、朝決意した覚悟と言う名の城壁はバラバラと崩れかけてきている…。
何かしら理由をつけては彼女に近づこうとしている自分に。
今日はそんな事をずっと考え続けている気がする。気が付けば放課後で、僕は山口と下駄箱にいた。
パタパタと音がして誰かが近づいてきた気がしたと同時に今日の悩みの種の元凶の声がした。
「蛍…グッチー…その、一緒に帰ってもいい…?」
なんでそんなにおどおどしているのかはなんとなく予想は出来たから。
「好きにすればいいデショ。」
出来るだけ普段通りに言った。
「俺もいいよ!」
山口は笑顔で応えていた。
由佳はこっちがびっくりするくらい大きな声で、ありがとう!!!って…。
たかが一緒に下校するだけデショ。でもそんな由佳の態度が嬉しい自分がいて。
「由佳…うるさい…。」
せめてもの照れ隠しで出た言葉はただ由佳をニコニコさせるだけだった。
駅まで向かっている間、山口と由佳は相変わらず僕を挟んで会話をしている。
「ねぇ、由佳ちゃんは、好きなアーティストとかいるの?」
「えっと、有名なバンドだとAnge déchuかなぁ~。」
あぁ~、まぁ大体みんなそういうところいくよね。
メジャーだし、とりあえずみんな話が合わせられるし、曲もまぁ、いい。
「Ange déchuってアンデって略されてるバンドだよね?モンスターバンドって言われるくらい有名な。」
「そそ!声が綺麗だし、言葉も抽象的でキレイなの。あとは、heathってバンドが好きかな~。言葉の選び方がすごいんだよ!あんまり知ってる人いないんだけど…」
「ひーす?聞いたことないなぁ。どんな曲が多いの?」
「恋愛系だよ。だけど、ほとんどの曲がハッピーエンドにはならない。」
「え…?蛍知ってるの?」
「なに?知ってたらいけないワケ?」
「いや、知ってる人あんまりいないからびっくりしただけ!」
「さすがツッキーだね!」
「山口うるさい」
恋愛系で唯一聴くアーティストだ。デビュー当時から好きだけれど、マイナーすぎて近所のCD屋にもないのでいつも取り寄せだ。
それを由佳が知っていたのには正直こちらが驚いている。
もっと、明るい曲調が好きなのかと勝手に思っていたから。