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【文豪ストレイドッグス・文スト】中原中也・中編 ※R18

第2章 (中也とやっぱりえっちしたりすれ違ったりする話)


「ーーー」
彼女は男の名前を呼ぶ。まるであやす様に。
男は応える。まるで甘える様に。
母親に得意げに悪事を自慢する幼児のように、男はただ、にこやかに応える。
「ーーー」
彼女は彼の名をもう一度呼び、首筋にキスをする。
先程の行為でほとんど取れてしまった、僅かに残る赤い口紅が残る形の良い唇は、ありがとう、大好き、そう呟く。

そして、枕元からそっと引き抜いた注射針をそっと彼に手渡した。注射針の先はとても鋭利だ。

「ご褒美よ。1人でできる?」
彼は頷く。
彼女は微笑むと、手早く床に落ちたワンピースを身に付け、華奢なハイヒールに足を入れ、髪を手櫛で整えた。先ほどの荒い息は嘘のように、颯爽と立ち上がると、先ほどまでベッドの上で、まるで小動物のように喘いでいた女は、立ち上がると猛禽類のような凛々しさすら感じさせた。

✳︎ ✳︎ ✳︎

女がちょうど、ホテルのラウンジで4杯目のカクテルを頼んだ頃、にわかに騒ぎが起こり、僅かに数分後にはもう、元の静寂を取り戻した。
聞こえるのは耳障りではない音量のクラシック音楽と、バーの装飾として置かれた巨大な水槽のコポコポという泡の音だけ。

横浜、海沿いの夜景が売りである、とある高級ホテルのバーラウンジ。
そこに腰掛け、気だるげにカクテルに刺された花を弄る美女ーーは、静かに首を上げた。

身を包むのは、真っ黒なビジネスパンツスーツ。中に着たストライプのシャツは第1ボタンまでしっかりととめられている。
小脇には小さなビジネスモデルのノートパソコン。その画面を覗き込む、大きな瞳を包み込むようなウェリトンメガネという様相は、どこからどう見ても仕事で出張中の営業、あるいはフリーランスの記者、あるいは…と無粋な想像をしてしまうバーテンダーは、彼女がテキーラベースのカクテルを飲み干すのをもう3度も見届けていた。

高級ホテルというのは、決して客の情報は漏らさないが、流石に人間の失命というものは隠しきれないものなのである。

一瞬のざわめきを感じ取り、彼女は満足感を得る。
一仕事を終えた時の充実感とでも言えるだろうか?自分の異能は完璧ではないが、だからこそ完璧な仕事をこなすたびに安堵にも似た何か名前の分からない感情を覚えるのかもしれなかった。
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