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【YOI・男主&勇ヴィク】貴方の、『a』のみの愛。

第1章 貴方の、我侭。


「俺も、勇利の歌で滑ってみたい」

恐るべき冬の魔物であるこたつの天板にその形良い顎を乗せながら、ヴィクトル・ニキフォロフは、自分の隣りにいる勇利と、対面に坐る純の2人を順番に視界に捉えた。
「いきなり何言うてんねんな、アンタは」
「だって、俺の知らない所でまた君達2人で勝手なコラボしたんでしょ?勇利の歌なんて、俺でも満足に聴いた事ないのに!」
「だから、それはあくまで緊急の人助けだったって、説明したでしょ?そうでなきゃ、僕だってあんな事しなかったよ」

話は、ヴィクトル達が例年を遥かに凌ぐ大雪と共に長谷津にやって来た日の前日まで遡る。
全日本選手権終了後、長谷津に年越しに来ていた純は、偶然催されていたアイスキャッスルでの子供教室の発表会の手伝いに勇利と共に参加したのだが、そこで当日踊るプログラムの音源を電車の中に忘れてきてしまったという少女と出会った。
失くした音源は鉄道会社に連絡するも見つからず、隣の市から越境で通って来ているその少女は、体格やスケートのセンスはそこそこあるものの、若干のコミュニケーション障害を抱えていて、強固な拘りから同名の曲のCDや、他の音源を代替えに当ててはどうかと家族や優子達が勧めても、頑なに拒んでいた。
そこへ音楽方面に長けた純が、少女から音源の特徴を聞き出し、それに近い音ならば滑れるかも知れないという少女と勇利を連れて、急ぎミナコに頼んで彼女のバレエスタジオを開けて貰った。
少女の演目は、シューベルトの「アヴェ・マリア」で、音源は彼女の従兄が歌ったものを録音していたのだという。
スタジオのピアノを借り、ダウンロードで印刷した楽譜で触りを演奏してみた結果、勇利の歌声が彼女の従兄のそれに近い事が判明し、乗り気になってきた少女の表情を見た純は、勇利に彼女が滑る構成で歌うように言った。
「僕、ドイツ語なんて判んないよ!」
「僕が判るから、カタカナでそれらしいルビ振ったるわ!解決する方法があるのに、大人の都合だけで子供の夢や希望壊したらあかん!」
幾度の練習と録音を済ませた後、純のピアノ伴奏と勇利の歌による「アヴェ・マリア」でリンクを滑る少女は、心底嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
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