第67章 約束の地へ 後日談(5)
(皆んな何か凄い忙しそう……)
あちこちの部屋で荷造りをしている姿を見て、昨夜の家康の言葉を思い出す。
ーー明日から……ひまりを新居に迎える準備をしてくれ。
(確か、祝言は新しく建てたお城でするって……言ってたよね?)
その後もそのお城で暮らすことになるからって……だから皆んな引っ越しや、他の準備で大変なんだ。
何だか申し訳ない気分になる。
女中さんに私も何かお手伝いさせて下さい、と声をかけてみたものの……。
「そんなっ、ひまり様のお身体に何かあったら大変です!私達のことは気にせず、お部屋でゆっくりお休み下さい」
と、言われてしまい……。
せめて簡単なお掃除だけでも、とお願いしても皆んなから頑なにお断りされ、私はしぶしぶ諦める。
(あまり無理言って迷惑かける訳にもいかないし……)
「それなら、ワサビの餌を買いに行っても良いですか?さっき台所で探してみたのですが、見当たらなくて……」
「も、申し訳ありません!昨日はひまり様が戻られると聞いて、皆んな浮きだってしまい……うっかり買い忘れてしまったようで」
「ふふっ、なら尚更私に行かせて下さい。後でワサビに謝らないと」
私は身支度を済ませると、籠を持って玄関に向かう。
「ひまり様、お身体を大切に、くれぐれもお帰りは遅くならないようお願いします」
「はい!行ってきます」
女中さんに見送られながら扉を開け明るい外の景色を見て、この世界に戻ってきた実感がふつふつと湧き出る。
家康と一緒にいる時は安心感の方が強くて……戻ってきた実感よりも、ずっと側にいれることが何よりも嬉しかった。
ーー……今夜も抱きたいから
ちゃんと大人しくしててよ。
玄関でお見送りした時に囁かれた言葉を思い出し、顔が一気に熱くなる。
私は熱が篭った頬に手を当てながら、ゆっくりと歩き出した。