第16章 織物のように(三成)
「わぁ!すごい!こうやって作るとこんなに柔らかくモチモチになるんだねー!」
『だろ?一手間加えるだけで、料理っつーもんは圧倒的に変わる』
三成の御殿の台所では、とても楽しげな声が響いている。
〈もうすぐ十三夜が来るから、美味しいお団子が作れるようになりたい〉
そんな思いをぶつけた愛に、
嫌な顔一つせず、教えに来てくれている政宗。
「三成くん、喜んでくれるかなぁ」
愛しい人を想い、顔を綻ばせる愛に、
政宗も終始穏やかな表情を浮かべている。
『ははっ。あいつに〈美味しい〉を教えてやれるとしたら、
多分お前だけだろうからな。全く、人参の克服もあっさりしやがって…』
秀吉と共に、三成の苦手な人参を克服させようと腕を振るった日を思い出し、
政宗は少しだけ顔を曇らせる。
『結局お前の手料理なら、あいつはなんでも美味しいんだ。
せいぜい、頑張れよ、愛』
そういうと、優しい手つきで愛の頭をポンポンと撫でた。
「政宗には到底敵わないんだけど…でも、頑張るから、
これからも色々と教えてね!」
無邪気な顔で笑う愛を見ると、少しだけ複雑な気持ちになった。
そこまで本気で狙っていたわけではないはずだった。
でも、いざ誰かのものになってしまうと、
今まで感じた事のない悔しさのようなものが湧いて来る。
(まぁ、成るべくしてなったわけだし、俺の隙はなかったからな)
心の中で苦笑いを浮かべると、
『ほら、今度はお前一人で作ってみろ。見ててやるから』
そう言って、団子を作ることを促した。
「うん!」
愛は笑顔でうなづき、手を動かし始める。
「これ、餡子つけても美味しいだろうな♪」
鼻歌を歌うように軽やかに言う愛に、
『そうだな。せっかくだから、奥州名物の豆打の作り方も教えてやるよ』
と、気持ちを切り替えて甲斐甲斐しく料理を教えて行く。
(三成くんが喜ぶ料理を、沢山作っていきたいな)
ある日の台所には、そんな愛の優しい気持ちで溢れていた。