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イケメン戦国★センチメンタルLOVE

第12章 忍びの庭 後編


朝の光の中、小鳥がさえずりはじめる中、
愛は、丁寧に糸を結び、目立たないように鋏で切った。

「終わった…」

たった今仕上がったばかりの着物を、空いていた衣桁にかけると、
庭の襖を開けた。

雲ひとつない青空が広がる予感を残す、明け方の空には、
遠く朝焼けが徐々に地面を照らしていく。

二日後には宴の席で、武将たちがこれを着る。
愛は、感慨深く部屋の中の衣桁を見渡した。

そっと手紙と共に置いていくことも考えたが、
どうしても、自分の手で作った着物を着るみんなの顔が見たくなった。

「喜んで…くれるかな…」

作った服に、袖を通す時が一番緊張する。
そして、その先に笑顔がある事を期待する。

佐助がいつか言ったように、
この着物がもしかしたら自分の時代にまで残る可能性がある。

実感は全く湧かないが、教科書でしか知らなかった歴史上の人物たちが、
今から自分の作った着物を着ようとしているのだ。

そんな事を考えながら、ひとつひとつの着物に触れるうち、
庭からはすっかり陽の光が部屋を明るくする。

最後に仕上げた三成の着物に陽が差し、
輝く薄い菫色の生地が七色にキラキラと輝いていた。

それはまるで、いつも青空のように澄んだ瞳と、
太陽のような笑顔を向けてくれた三成本人のように。

「三成くん…」

きっと三成は今朝も変わらず散歩の誘いに来るだろう。
そして、自分は変わらずその誘いを受けて城下に出かける。
二日後には居なくなることは、告げないまま。

『あなたを独り占めしたい…』



その本意はきっと聞けずに終わる。
聞いたからと言って、何かが変わるわけではない。



『宴の前には…』



(ごめんね、三成くん…嘘を吐いてたのは、ずっと私の方だ)


誰にも言わなかった。何処から来たのか、何処へ行くのか。
なぜ、敵陣の佐助と仲がいいのか。

(なのに、自分だけ疑われてると思ってたのは、虫のいい話だったかも)


相手は、明日の命も保証されない戦国武将たちだ。
こんなわけのわからない人間に、無条件で心を許すなんてありえないだろう。
それでも、ここまで受け入れてくれた皆の顔を思い出すと愛は目の奥を熱くした。

(嘘ついたまま帰ることを許して下さいね…)
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