第11章 忍びの庭 前編(佐助)
タイムスリップして、アレヨアレヨ…といううちに安土城に連れてこられた。
なんで、よりにもよって戦国時代…。
住む世界が違いすぎるし、自分の常識なんて一切通用しない世界。
佐助君は凄いな…
現代で、あんなに適応力あったけ?
どちらかと言えば、幼い頃から特定の友達しかいない気がする。
高校までは同じ学校だったけど、大学は難しいとこ行ったんだよね。
一人で毎日研究してるって言ってたな。
たまーに、私の部屋まで来て、お茶飲みながら話してくれた。
今と、左程変わらないか。入り口が天井になっただけで…
宇宙物理学?私には縁のない学問だなぁ…星空を見上げるのは、
今も昔も変わらず好きだけど。
よく、お兄ちゃんに
《お星様はどうやって取れる?》
って聞いたっけ。
小さい時から、私達兄妹と佐助君と大翔(ヒロト)、ずっと一緒だったな。
今は、もう二人だけど…。危うく、ひとりぼっちになりかけるところだった。
部屋の行燈も付けずに、毎日毎日ぼーっとしてしまう。
初めてこの部屋に着いた日に、天井からやって来たのは佐助。
その顔を見た途端に、全身の力が抜けた。
二日目、信長に無理矢理戦場に連れて行かれた愛は、
放心状態で部屋に戻ると、そこには自分を一番疑っている秀吉がいた。
色々話してくれたが、何にも頭に入らない。
(一人になりたい…)
終始そう思っていた。秀吉が話す間、一度も顔を見ていない気がする。
(どうせ…あの険しい顔で話してたんでしょ…)
秀吉が去ると、そこに佐助が登場する。
「佐助君…」
一気に感情が噴き出した愛は、思わず佐助に抱きついた。
『っ!愛さん!』
子供のように泣きじゃくる愛を、優しく包むと、
愛が泣き止むまで、黙って背中をさすってくれた。
「私…バチが当たったのかな…」
腕の中から掠れた声がする。
『少し落ち着いた?』
いつでも取り乱さない佐助の淡々とした声が降ってくる。
他の人には同じに聞こえる声、同じに見える表情も、
長年一緒にいた愛にはわかる。
(佐助君…とっても優しい声…)
愛はゆっくり身体を離し、俯いたまま小さく頷いた。