第9章 <番外編SS*夏> ねがいごと【黒尾鉄朗】
「もし私たちが織姫と彦星だったら、どうする?」
今日は7月7日、七夕。
朝飯の途中、梨央が唐突に尋ねてきた。
「一年に一度しか会えねーの?」
「うん」
「そんなの耐えらんないから、天の川泳いで梨央姫に会いに行く」
「ワイルドー!さっすが体育会系!」
「まーね。梨央は?やっぱり泳いで会いに来ちゃう~?」
「私、泳げないから無理」
「そうだ…梨央、運動全般ダメだった…」
「その代わりに、舟を作ります」
「ほほう?舟漕いでテツ星のとこまで来るってこと?」
「ううん、テツ星も泳いでこっちの岸まで向かってよ。中間地点で落ち合えば…ほら、時短!」
「家事みたいに言わないでくれる!?」
まあ、確かにその方が早く会えるだろうよ。
でも梨央が頑張って舟漕いで会いに来てくれるってのも、嬉しいじゃん?
「だって、一分でも早くてっちゃんに会いたいもん」
照れもせずそんなことを言いながら、味噌汁を啜る梨央。
一緒にいる時間が長くなってきても、恋人から夫婦になっても。
梨央は俺のことが大好きらしい。
「なんだよぉ!ホントうちの奥さんは可愛いんだからぁ~!」
「ちょっ、てっちゃん!こぼれる!」
堪らず梨央の後ろからギュゥッとハグする。
「でもさ、知ってる?織姫と彦星って、働きもせず年中イチャコラしてたもんだから、怒った神様が二人を引き離したらしいよ」
「え?ほんと?ちょっとそれ、知りたくなかったかも…」
「何か夢が壊れるよなぁ…、あ、いけね。もう行かなきゃ」
「うん、今日も頑張ってね」
そう言って巾着を差し出す梨央の笑顔には、やっぱり癒される。
梨央だって仕事してるんだし無理しなくていいって言ってんだけど、毎日こうして作ってくれる愛妻弁当。
「いつもありがとな。こんなに可愛くて優しい奥さん貰えて、俺、幸せです」
「私も。こんなに素敵な人の奥さんになれて、幸せ」
微笑んで、抱き合って、小さくキスを交わす。
あれ…
俺らも年がら年中イチャコラしてるけど、引き離されたりしねーよな…?
頼むぜ、神様!お星様!
ちゃんとせかせか働きますから!
そんなことを思う、七夕の朝。
【 end 】