第8章 <番外編SS*春> 桃色ティータイム【月島蛍】
最近、家の近くに新しく洋菓子店が出来た。
ケーキ好きとしては見過ごすわけには行かない。
休日の午後、混み合う店内を物色しつつ数あるケーキの中から苺のショートケーキを二つ選び、テイクアウトした。
部屋に戻ると、「おかえりー!」という明るい声と共に奈々子さんが出迎えに来る。
「ただいま。仕事どう?」
「さっき終わったとこ!」
持ち帰ってきた仕事があるとかで、朝からパソコンと睨めっこしていた奈々子さんだけど。
それなら、ちょうどいい。
「ケーキ買ってきたよ。食べる?」
「わ、嬉しい!じゃあ紅茶入れるね。天気いいからベランダでお花見しようよ!」
「桜まだ咲いてないじゃん」
「でも桃が咲いてるよ?ほら、下の公園」
奈々子さんが指差す先には、二本の木に色づく淡紅色の花弁。
桜を先取りして、満開に咲いている。
離れたところから見ると、あの場所だけふわふわと浮き上がって綿あめみたいだ。
「あれって桃なんだ」
「たぶん」
「たぶんなの…?」
ダイニングの椅子をベランダに引っ張ってきて、ラタンの収納ボックスはテーブル代わりに。
買ってきたケーキと熱い紅茶を並べ、ささやかなお花見。
「蛍くん、あーんして?」
「…自分で食べられるケド」
「私がしたいの。誰も見てないんだから、いいでしょ?はい、あーん」
嬉しそうにケーキを掬い、僕の口元へフォークを持ってくる奈々子さん。
「ちょっ、大き過ぎ…」
ひと口って量じゃないでしょ、コレ!
何とか口に納めたはいいけど…
「クリーム付いたし…」
唇に生クリームが乗っかってるのがわかる。
「えへっ、ごめんね。はい、ティッシュ、」
「奈々子さんが取ってよ」
「え?」
「唇で」
さあ、君はどんな反応する?
喜んで顔を寄せてくるか、恥ずかしそうに躊躇してしまうのか。
今日の奈々子さんは、どっち?
あ、ほっぺが桃色に染まった。
「蛍くんて、急にデレるからびっくりする…」
「こういう僕も好きなクセに」
奈々子さんがキスしてくれないなら、僕から奪われに行くし。
誰も見てないんだから、いいデショ?
【 end 】