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フォンダン・ショコラ【ハイキュー!!】

第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】



定休日を挟んだ二日後のこと。

かつて店に入るのに、こんなに緊張したことがあっただろうか?
いつも一番に出勤してくるのは、優くん。
きっと中にはもう、彼がいる。
ドアノブを掴む手が、酷く強張るのがわかる。

でも私にも仕事があるし、第一ここは職場だし。
いつまでもこうしている訳にはいかない。
意を決して店内に足を踏み入れ、厨房に目を向けてみる。

そこには、いつもどおり仕込みに取りかかっている彼がいた。


「あ、おはようございます」


「おはよう…」


私に気づき薄く笑む顔は、いつもの優くんと同じ。
すぐに視線を目の前の鍋に戻し、作業を続けている。
着替えを済ませて私も厨房へ入ると、これまたいつものように話しかけられた。

「だいぶ涼しくなってきましたよね」

「そうだね」

「このままもう秋ですかね」

「うん」

「あ、でもまだセミは鳴いてますよね」

「うん」

何でこんなに普通なんだろ。
私の方が絶対に緊張してる気がする。


ていうか……待って。
あの時優くんは酔ってて…。
もしかして、覚えていない…?

それ、私だけ気まずいよ…!

優くんの気持ちを知っていながら、知らないふりしなくちゃいけないの?



手を洗ったきり何もしていない私に気づいて、優くんが近づいてきた。

「この前セミに遭遇した時の梨央さん、超笑えたんスけど」

「…え?」

「何かすげぇ変な格好で」

「……」

「あれで三日は笑えました」

砕けた敬語に毒づく言葉。
それから "梨央さん" て呼び方。

もしかして……


「一昨日はありがとうございました」

「……ちゃんと、覚えてるの…?」

「もちろん。ネコ脱いでいいって言いましたよね、梨央さん。素の俺の方が好きだって」

「え…」

「言いましたよね? "好き" だって」


そんな "好き" を強調しないで…。
深い意味なく言った言葉になのに。
優くんは私の隣に立ち、作業台に手を着いて顔を覗いてくる。

「言った…けど…それは…」

「わかってますよ。そういう意味じゃないことくらい。でも、梨央さんに言ってもらえた "好き" なら、どんな意味だろうと嬉しいですから、俺は」


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