第4章 静謐に佇む
「…こうして改まって、というのは…
なんだ、中々に照れるな。」
真綿が少し目線を外らせながら
私の上で、そう言った。
縛られた腕なんて、その気になれば一瞬で外せるだろうに…
「そう? この前、任務帰りにしなかったかい?
ウエディングドレスの真綿を頂いた気がするのだけれど?」
「それはそうだが…
成り行きというか、むう、判っているだろうよ」
言葉にし辛いことを尋ねても、機嫌を損ねられるだけだ。
もっとも、真綿は そんなことで怒ったりはしないのだが…
「ごめんごめん。」
それでも今は、それが兎に角可愛い。
怒らない代わりに、少し拗ねた真綿はものすごい精神破壊力を持つ。
煽る、という意味で…だけれど。
「…こほん。
それは兎に角。………良くない。」
「何が?」
するりとその頬をなぞり、可愛らしい唇に指先をあてた
ん、と逸らされる。
それもまた可愛い……
「…真摯 過ぎて見ていられないというか。
まっすぐ過ぎるというか。
そんな目で見るものではない……」
「……!?」
眉を困らせたように寄せた真綿がそんなこというから
身体の中に熱が溜まっていくのが判る…
「…む、むぅ。
なんだか、妾だけこのような気分にさせられていると思うと、
若干の癪を感じない訳でもないのだが…
…やはり、暗殺者の妾に真っ向からというのは…
どうにも、相性が悪い…」
小さな声でつむがれた言葉は、私の余裕さが気に入らないという旨だったが
指先にその柔らかな唇の感触が、
声を発すると共にふわりと味わえる感触が直接感じられて。
プツンと何か、我慢の糸というか欲望の糸が切れた。
というか自分で切った。
「…嗚呼…」
「む… 何なのだ?」
それはこっちの台詞なんだけどね…
萌え殺すって、たぶんこれのことだろうね。
好きも愛してるも、言ってはくれない。
真綿の特別にはなれない。
でも……
うん、でも。
「真綿…こっち見て…」
外された目線を合わせたくて
顎を掬い取るようにしてこちらを向かせた。
本当に…もう、どうしようもないくらい
「真綿…愛してる……」
「…そうか」