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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第26章 Scarlet Heart…III


話すたびに、その顔にモザイクが掛かるかのような

その声にノイズが走るような、認識妨害が入ってくる。




「私は––––」

「待て」


木の上にいたその人がぱっと手を翳した。

翳る顔、その目線は遠い何処かを睨んでいる。




「どうかしたのかい?」



そう聞いた直後、空に浮く月が歪む。



ぼやけるように、微細に震えていた。




炎の陽炎に揺らめく景色と同じように。

濃い霧に浮かぶ摩天楼のように。




【 ––––––!】



鼓膜を震わせたのは獣の遠吠え。

細くない、聞くものの耳に残る咆哮。



月が歪んで見えたのは、この咆哮の震動だったんだ……





「この咆哮は?」


「大方、夜中の獣が哮っているんだろうさ……見てくるか」



こんな夜中に出歩く子供はいないだろうけれど、もしいたなら恐怖で泣いているだろう。



そのくらい気味の悪くて、聞けばぞっとするような獣の息遣いが

夜の月を震わせたのだ。






「––––––……」




じっと明後日の方向を見つめ続けるその人の

白い着物の袂からわずかに覗いたほそい腕には、月光に全反射する刃物。





「……今夜はここまでで失礼させて貰うさね。


嗚呼……名、だが。」



ようやくこちらを見たその人の顔に見覚えはない。




判らない

その人の顔に見覚えがあるようなないような、それでいてモザイクが掛かっていて判らない。





「それはまだ

お預けという事にしておこうではないかや。


ふふ。 では、の。」




そう言って、彼女は袴を着ているというのに

木の上にまで飛び上がって、あっという間に去ってしまう。





「……お預けって……

次また会えるかも、判らないのに?」






闇に浮く月下美人の花と葉のように

白と紺碧の袴姿。




どこかで ––––
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