第6章 【参】煉獄&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)
「分かりました、分かりましたから。杏寿郎さん、だから、もう」
「よもやよもやだ! ついに呼んでくれたな、名前! 喜ばしい限りッ!!」
「い"ッ!?」
今度は俺の内臓が悲鳴を上げる番だった。まだそんな力を隠していたのかと戦慄するほどの怪力で抱き締めてきやがった。肺活量と筋肉量には因果関係があるとは言うけれど、なぁまさか今アンタ仮病使って絆したんですか? そんな筈ないですよね?
(……元気なら、良いんだけどよ)
鼻先が埋まる焔色に纒り付くのは檜の芳しい香り。それに混じって炊煙の甘い匂いが鼻腔を刺激してくるから、それだけは何だか気分が良いけれど、本当にそれだけだ。あの炎柱・煉獄杏寿郎に抱き締められているのだと自覚するだけで顔から火が出そう。
「つうか、まってれんごくさん、まってしぬ、しにますはなしてっ」
「また家名を口にしたな!杏寿郎と呼ばなければ力の加減は出来ない!」
「ぐえっ、ないぞうでちまうっ」
「人間の臓器はそう簡単にまろび出ない! 安心していい!」
「いままさにおびやかされてるんですがそれはっ」
それから紆余曲折を経て、煉獄さん――改め杏寿郎さんから解放されたのは、羽釜から炊き過ぎを示す汽笛のような甲高い音が鳴り始めた直後だった。
大急ぎで朝餉の支度を済ませ、広間で待機していた悲鳴嶼へ御膳を運び入れる。少しだけ羽釜に付いてしまったお焦げは、すべからく俺の器に盛った。
まさか「杏寿郎さんに熱い抱擁をかまされていたから飯を炊き損しました」とは、口が裂けても言えなかったからだ。
第参話 終わり