
第12章 【玖】胡蝶&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)

そして、和気藹々とした雰囲気で談笑する竈門達を、慈悲深い眼差しで見詰めていた蟲柱殿に声を掛けて注意を引き、悲鳴嶼へ渡して欲しいと言って革帯を託す。続け様に打竹を取り出し、懐炉代わりだと握らせた。
「冬の朝は寒いですから、どうぞ」
「また自然とこういう真似を……。私ではなく宇髄さんを頼られたら如何です?」
彼女は複雑そうに眉宇を歪め、桔梗色の複眼で見上げて来たが、視界に入ってしまったであろう頚の痕に気圧されたのか、抗議に開き掛けた唇を引き結び、表情を固くする。こんな穢れを晒したくなかったんだが、致し方無い。
「お館様のご命令を直接耳にした貴女にしか頼めない事なんです。申し訳ありませんが、宜しくお願いします」
「先程の『許可』でしょうか」
「……では、頼みます」
色々詮索したそうな彼女へわざとらしく微笑み掛け、会話を強引に断ち切って踵を返す。すると諦めが多分に滲み出た長い吐息の後、憤りに紅くうねる気魄を置き土産にしながら、小さな気配が静かに遠ざかっていった。
(……)
何はともあれ、これで後顧の憂いは絶たれた。許可が偽りだと突っ撥ねられない為に蟲柱殿を介して下さったお館様の采配には改めて敬服する。悲鳴嶼は彼女に滅法弱い。彼が難色を示した場合でも、お館様の意向を通してくれそうな人選だった。
(……感謝致します、お館様)
その代わりに俺は態度で示すつもりだ。後輩達と手合わせする間は頚を隠さないと決めていた。誓約書が仕込まれた大事な革帯を手放す意味を、自らの恥部ともいえる痕を敢えて晒し続ける意味を、悲鳴嶼に分かって貰わなければならない。
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「お前らは日輪刀使え。俺が使うのは"これ"な」
「それは……?」
「石筆」
竈門の眼前に翳したのは『忍の六具』のひとつ。蝋石という柔らかい素材で出来た筆記用具で、対象に押し付けると蝋が微細に削れて付着していき、文字や記号を描画出来る。これに武器としての特徴は無く、殺傷能力など微塵も無い。使い方次第ではあるけれど。
「木刀も使わないなんて……大丈夫ですか?」
「っは、自分の心配をするんだな。こうでもしなけりゃ、お前達の全身が忽ちバラバラになる。死にたくないだろ、こんなところで」
「……俺と伊之助も丙の階級で、カナヲだって丁です。俺達の力量は殆ど拮抗している筈だから気を使わないで下さい。名前さんも日輪刀で戦っ――」
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