第28章 青の心
───名前を読んだ記憶はない
でもこいつは、俺を見上げた
澄んだような・・・
いや、澄んだ目が俺を映してた
声は出ない
出るはずがない
でも、こいつは確実に言ったんだ
────『ありがとう』
そう告げた瞬間に、その両目から涙が溢れ出して
遠心力かなんかの力で、俺の頬が冷たく濡れた
なんでこいつが泣いてんのか分かんねぇ
・・・なぁさつき
やっぱ俺に、『乙女心』は分かんねぇみてぇだ
でも、そんな俺でも咄嗟の動きはできた
はちの涙をごしごし拭って、眉間にシワを寄せるこいつを乱暴に撫でる
いかにも不機嫌そうな顔をしてるが、そんなの知らねぇよ
俺には女の気持ちは分かんねぇからな
だけど、拭っても拭っても涙は止まんねぇ
・・・メンドくせーな
止まんねぇから、俺の頬も濡れたまんま
でもそれを、拒否している自分はいなかった
心の奥底がくすぐられてるみてぇ
────その感情の正体を、俺は知っていた
「・・・ったく、
俺もお前も
ほんとバカだよなぁ」
え?
みたいな顔で見上げられる
また乱暴に頭を撫でて、ごしごしと涙を拭った
俺の前でなら、いくらでも泣けばいい
要領はわりーけど、好きな女のためなら、男は変われんだよ
だからな!はち、
「───お前が泣きたくなったら
いつでも俺んとこ来い」
この気持ちが届かなくてもいい
俺はお前を守ってやるって、
このとき思った
───これが、バスケに人生を捧げてきた俺の、
初めての恋だった