第3章 好きなところ
[好きなところ]
―コンコンッ
『はぁい』
「お嬢様、アフタヌーンティーのお時間ですよ」
『ありがとうセバスチャン!』
名無しは読んでいた本を閉じると、テラスのイスに腰を下ろした。
紅茶を用意するセバスチャンに名無しは、先程の本を差し出した。
「如何しましたか?」
『ちょっと、朗読して?』
「またですか?」
『発音が分からなくて…ダメ?』
「そんな可愛くお願いされては、イヤとは言えませんね」
首を傾げながら問う名無しにセバスチャンは、困ったように笑いながら本を受け取った。
指定された場所をゆっくりと声に出して読む。
それを聞きながら、名無しは紅茶を一口飲んだ。
しばらくして、セバスチャンは本から顔を上げた。
『やっぱりセバスチャンの声は素敵ね!』
「恐れ入ります」
胸に手を当てお辞儀するセバスチャン。
『私、セバスチャンの声好きよ!』
そんなセバスチャンに名無しはニコッと微笑んだ。
一瞬、セバスチャンの動きが止まる。
紅茶色の瞳がすっと細められ、口元が
嬉しそうにつり上がった。
「声だけですか?」
『え?』
「私の好きなところは、声だけですか?」
『せ、セバスチャン?!///////』
鼻が当たりそうなくらい顔を近付け、その瞳いっぱいに彼女を映す。
『ぁ、あの、どういう意味か、その…///////』
「目を逸らさないで。私だけを見てください」
名無しが目を泳がせると顎を掴かまれた。
「私は貴女の全てが好きですよ、名無し」
『!!////////』
縮まる距離。
ゆっくり顔が近付き、セバスチャンはもう一度呟いた。
「さぁ、私の好きなところ、ちゃんと言えますよね?」
『…声も好き…紅茶色の目も好き…大きな手も』
「他には?」
『だ、だから…ぜ、全部好き…セバスチャンの事が…全部好き、です////////』
言い終わると同時に重なる唇。
――声も好き。でも、それ以前にあなただから好き――
Fin
(私も名無しの歌声が好きですよ)
(え?私、歌ったことあったかしら?)
(えぇ。毎晩、私の部屋で)
(――っ!!ばかぁっ!!/////////)
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