第9章 狂うほどに君を愛してる / 徳川家康
「そ……っかぁ……お仕事なら、仕方ないよね」
明らかに寂しそうに舞はため息を付く。
その顔が、なんか切なくて、でも可愛くて……
(あー、今すぐ触れたい、甘やかしたい)
心の声なんて届く筈もなく、家康は握り拳を握ってぐっと耐えた。
「ごめん、ちょっとの辛抱だから」
「私にとっては、ちょっとじゃないな、十日は長い…な」
(だから、可愛い事言わないで。 本当に抑えられなくなるから)
ハッキリ言って泣きたい。
泣きたいくらいの感情をぐっと堪えたが……
頭と身体は違う。
自然と舞の頭に手が伸びていた。
舞の髪を梳きながら、家康は笑った。
「帰ってきたら…目一杯甘やかすから、覚悟しといて」
その言葉に、舞ははにかみながら、ふにゃっと笑う。
「うん、解った」
(ごめん、政宗さん。 もう二回も約束破った)
初日からこんなんで、本当に耐えられるのか。
家康の頭に、一抹の不安がよぎった。
それから、十日間。
家康は、堪えに堪えた。
『舞に触りたい』が口ぐせになり、何回政宗に叩(はた)かれたことか……
頭と身体は別々の生き物。
それが否が応でも、思い知り。
本気の涙なんて、子供の頃以来に流した。
そして愛する者が出来ると言う事が、どれだけ幸せで。
愛される、触れられると言う事が、どれだけ奇跡な事か。
それをありありと思い知った十日間だった。
「家康、なんかお前、やつれたな」
十日目の朝。
縁側でぼーっとしていた家康に、政宗は声をかけた。
ハッキリ言って。
クマは出来ているし、なんか痩せたし。
これが、やつれてないと言えるだろうか。
「政宗さんのせいですよ……舞に触りたい」
「はい、ちょうど五百回目」
政宗が家康の後ろ頭を、すぱーんといい音を立ててはたく。
もう抵抗する気力もなく、されるがままになっている。
「舞……何してるかな」
「昨日、俺の頼んだ羽織を届けにきたぞ」
それを聞くや否や、家康は風の速さで、政宗の胸ぐらを掴んだ。
「なんでそれ、黙ってたんですか」
「顔が怖いぞ、やめれ」
「答えになってないです」
本気で家康が泣き出しそうなので、政宗は一つ咳払いをする。