第9章 狂うほどに君を愛してる / 徳川家康
「あ……っ、家康、んぁあっ」
(もっと聞かせて……あんたの声)
狂うほどに愛してる。
もっと溺れて、俺に。
「はぁん……あっ、ああっ」
名前を呼んで、べたべたに甘やかして。
そう、蕩けるくらいに。
蕩けあって、二度と離れないように。
「おっと……っ、危ない」
目の前をふらふらと歩く舞を、政宗は肩を掴んで引き寄せた。
直後、目の前を馬が走り抜ける。
舞は、目をぱちくりさせて政宗のほうに向き直った。
「政宗、ありがとう」
「なんかふらふらして、危なっかしいな……具合でも悪いのか?」
「大丈夫、ちょっと寝不足なだけだよ」
よく見ると、舞の目が赤い。
「他に具合悪いとこは無いのか」
「うーん……腰とお腹がちょっと痛いけど、大丈夫だよ」
『寝不足』『腰と腹が痛い』
それを聞いて、政宗はピンと来た。
そして額に手を当て、げんなりといった風に呟く。
「家康……あの野郎」
「家康がどうかしたの?」
「いや、こっちの話。 お前はとりあえず寝ろ」
政宗は、舞の頭をぽんっと撫でた。
その日、政宗は家康を馴染みの茶屋へ呼び出した。
本当は甘い筈の団子が、家康の持参トウガラシに寄って赤く染まっていくのを見ながら……
政宗は呆れたように切り出す。
「お前な、頑張りすぎるなよ」
「なんの話ですか」
すると、政宗は家康の頭を押さえつけ、顔を近づけて言った。
「夜の営みの話」
瞬間、家康は口に含んでいた茶を、政宗の顔に盛大に吹き出した。