第7章 可愛いお前の虜 / 伊達政宗
『舞が怪我をした』
その報せを受け、政宗は馬を走らせていた。
詳しい事は解らないが、今家康の御殿で手当てを受けていると。
こんな時に、仕事とは言え遠出していた自分を悔やんだ。
普段なら一刻かかる道程を、たった四半刻で走り抜け、家康の御殿に転がり込む。
(舞、無事か)
廊下を走り抜け、直感で家康の部屋に居るだろう、と。
派手な足音を立てて家康の部屋に直行すると。
「……うるさいですよ、政宗さん」
不機嫌そうな家康が出迎えた。
「舞、怪我したって?」
「そんな青ざめなくても、大したことないですよ。 ただ」
「ただ?」
「日常生活は、ちょっと不便かも」
そんな話を、部屋の入口で家康としていると。
「政宗?」
家康の背中の向こうから、自分を呼ぶ愛しい者の声が聞こえてきた。
「舞、寝てなくていいの?」
家康が話途中で部屋の中に戻ろうとするので、そのまま一緒になだれ込むと。
「大丈夫だよ……って、政宗来たの?」
目の周りを包帯でぐるぐる巻きにされ、布団に寝かされている舞の姿があった。
「舞、どうしたんだ、それ」
「政宗の声だ。 今日視察で遠くに行ったんじゃなかったの?」
「うるさい、質問に答えろ」
布団から身を起こそうとしている舞を手伝って、布団の傍に座り込む。
包帯のせいで何も見えないのだろう。
姿を探しているのか手探りをしているので、その手を取ってやると、手にも痛々しく包帯が巻かれてあるのに気がついた。
「落馬したんですよ、舞」
「落馬? なんでそんな事になった」
「まぁ、事情は色々あるんで省きますけど」
なんとも煮え切らない家康の答えだったが、とりあえず話の続きを聞く。
「落馬した時に、砂利とか土とかが目に大量に入ったみたいで。 大した傷ではないんですが、細かい傷が目にたくさんあるので。 開かせとくと治らないんで、この状態にしてます」
「成程、大したことはないんだな?」
とりあえず、その事に胸を撫で下ろした。