第6章 幸せな我儘 〜一夜限りの恋人よ〜 / 豊臣秀吉
それから、暫くした、ある夜。
「秀吉様、舞様が見えております」
秀吉が激務をこなし、屋敷に帰ってみると。
女中がかしこまって、そう告げた。
「見えておりますって……もう丑の刻近くだぞ」
「はい、どうしてもと仰られたので……お部屋に通してあります」
こんな夜更けに、女を男の部屋に通すのも、おかしな話だ。
だが、何かよっぽどの事情があるのかもしれない。
羽織りだけ女中に預け、秀吉は足早に部屋へと向かった。
この間の事が気まずいが、そんな事も言ってられない。
(舞、大丈夫か)
暗い廊下を小走りで駆け抜け、自室の前まで来る。
一旦軽く呼吸を整え、襖をゆっくり開けた。
(………………っ!)
秀吉は、思わず息を呑む。
香の残り香漂う、いつもの自室。
きちんと片付けられた部屋の中央には、当然のように布団が一組だけ敷かれており。
その布団の上に、舞が正座をして待っていた。
「舞……」
「おかえりなさい、秀吉さん」
そう言って、うやうやしく頭を垂れる舞。
思考が固まって、追いつかない。
(なんだこれ、一体どういう事だ)
「信長様のご命令なの」
先に口を開いたのは舞だった。
そのまま舞は、乾いた声で告げた。
「秀吉さんと、夜伽を、と」
瞬間。
稲妻に打たれたような衝撃が、身体を走った。
夜伽、それはつまり。
信長様は、舞を。
俺の手で手篭にしろ、と。