第6章 幸せな我儘 〜一夜限りの恋人よ〜 / 豊臣秀吉
お前は尊い主君の寵愛する女。
俺はただの家臣。
どんなに焦がれても焦がれても
届くはずないと思っていたのに。
何の因果かなのか。
まさか、あんな命がくだるなんて。
ーーーなぁ、舞。
「貴様、最後に女を抱いたのはいつだ」
(は……?)
信長からのあまりに唐突な質問に、秀吉は口ごもった。
今日は予定より早く米の収穫高の報告書が出来たため、主君信長様の部屋を訪れただけで。
なのに、部屋には入るなときて、この質問。
一体何事なんだろうか。
(御館様は、俺をからかっておられるのか?)
「秀吉、答えろ」
痺れを切らしたような主君の言葉に、思わず背筋が伸びる。
どうはぐらかすか……
「御館様、その問はお戯れが過ぎるかと」
それ以外、どう答えようがある?
いついつ抱きました、なんて正直に言う事でもないだろう。
すると、大きなため息が部屋の奥から聞こえ、主君の呆れ返ったような声が響いてきた。
「貴様はやはりつまらんな。 女の肌は良いぞ、触れれば手に吸い付き、貫けば良い啼き声を上げる」
(そう仰られてもな……)
遊びでは女を抱けない性分ゆえに、経験が無い訳ではないが、大して威張れるようなものではなく……
それにもう、心に決まった女がいる。
その女以外は絶対に抱かないと決めてしまったから。
(まあ、一生無理だけどな)
秀吉が諦めに近いため息をついた、その時だった。
「あんっ、んぁっ」
(!!!)
突然、部屋の奥から聞こえてきた甘い喘ぎ声に、秀吉は手に持っていた報告書を床にぶちまけた。
(今の声は……舞……?!)
その声の主に、一瞬で辿り着く。
普通にしてたら、あんな淫らな声を上げたりはしないだろう。
それはつまり、今、信長様と舞は。
「し……失礼致しました……!」
床に落とした報告書をそのままに、全力でその場から立ち去る。
心臓が音を立てて、痛いくらいに五月蝿い。