第5章 幸せな我儘 / 織田信長
「勿体なかったな、ドレス……」
その夜、月光浴をしながら酒を酌み交わしていた二人。
舞が残念そうに呟いた。
「なんだ、物足りないのか?」
「ち、違いますっ」
信長に色っぽく囁かれ、舞は頬を染めた。
「ドレスって高価なものだから、あんな風に切っちゃったのは勿体なかったなって」
「あんな破恋知な花嫁衣裳は要らん。 着たって誰にも見せん」
「ふふっ、我儘ですね」
くすくすと舞が笑う。
その唇を捕らえると、信長は酒に濡れた唇で、ちょんと触れた。
「あ……」
「貴様は針子だろう。 花嫁衣裳は自分で作れ。 この世に一つしかない、俺の為だけの花嫁衣裳を」
「信、長、様」
「ゆっくり作れ。 まだ時間をくれてやる。 しかしな…」
信長は舞の腰を引き寄せ、妖艶に微笑んだ。
「あまりに遅いと、子のほうが先になるぞ」
この熱には、きっと一生抗えない。
きっといつまでも翻弄され続けるのだろう。
そんな幸せな我儘を感じながら、
舞は信長の胸に顔をうずめた。
終