第1章 臆病なその奥/豊臣秀吉
「ひとつ訊いてもいいか」
「うん、なに?」
「お前は寂しくないのか? こっちに来て、家族や友と離れ離れになったんだろ……逢いたいとは思わないのか」
その問いに舞は口を閉ざした。
やっぱり、訊くんじゃなかったな…
やがて、舞は秀吉の肩に頭をもたれかけて言った。
「寂しくないよ。 だって、秀吉さんが居るもの」
その言葉に舞のほうを向くと、舞はゆっくり秀吉を見た。
見つめる目が、きらきらと輝いている。
「最初は寂しかった…でも、秀吉さんが居てくれるから、私は寂しくないよ。 大好きな人の傍に居られるんだもの、こんな幸せなことないよ」
「舞…」
「私、秀吉さんを好きになってすごく幸せなの。だから……わっ」
言い終わるより先に、秀吉は舞を抱きしめた。
いじらしい、何よりも可愛い華奢な身体を。
「俺も幸せだ。舞を好きになって。傍に居られて」
「秀吉さん…」
「顔をよく見せてくれ」
身体を少し離し、片腕を腰に回したまま、空いた方の手で舞の顎をとらえて上を向かせる。
ほんのり赤く染まった顔で、でもしっかりと秀吉を見つめている。
「お前の目は綺麗だな。吸い込まれそうだ」
「秀吉さんこそ」
「あの…なんだ、その…」
秀吉は言いにくそうに、唇を噛む。
「口付けて、いいか」
「……っ」
舞の顔が、ぼっと更に赤く染まる。
「嫌ならいいんだ」
口付けひとつですら了承を得るなんて、おかしい話かもしれない。
でも、舞が嫌がる事はひとつだってしたくない。
そのくらい、惚れ抜いているから、舞に。
清い仲なんて、そんなのは本当は望んでいない。
本当はめちゃくちゃに抱きしめて、身体を重ねて。
自分と言う存在を舞に教え込ませたい。
でもそんな傷つけるような事、出来るか。
大人で余裕のある自分を好きな舞に。
がっかりさせたくない――……