第38章 一触即発禁止令 / 明智光秀
最後は言葉にならなかった。
光秀が舞の肩に頭を乗せ、うなだれると、舞は目を見開き……
やがて、震えた声で呟いた。
「怖いん、です……」
その一言に思わず顔を上げる。
舞は瞳に涙をいっぱい溜めて、しかし。
どこか煽情的な表情をしていた。
「私、光秀さんが好きで、本当に本当に大好きで、自分でもどうしようもないくらい」
「舞……」
「だから、怖いんです、自分が自分で無くなってしまうようで」
舞の瞳から涙が零れ落ちた。
それがあまりに綺麗で、目が離せなくなる。
「貴方に触れられるたび、おかしくなるんです。気持ち良すぎて、頭が蕩けて、手が唇が、私を蝕むんです」
「舞……」
「怖かった、光秀さんに触れられ続けたら、本当に私おかしくなっちゃう」
「あ……」
「だから、だから、私……っ」
「…………っ」
(なんで、お前は、こんなに……っ)
直後、光秀は力強く舞を抱き締めていた。
呆れるくらい素直なこの娘が。
欲しくて欲しくて愛しくて。
まるで、子供のように泣きじゃくる舞に。
みっともないくらいに欲情している事に気付く。
「そんな理由で、俺に触れるなと言ったのか?」
「はい、は、い……っ」
「俺が、おかしくなってもか?」
「え?……あ」
そっと舞の唇を優しくついばむと、舞の口からぽろりと甘い息が漏れた。
びっくりした表情を浮かべるので、光秀は悪戯っぽく舞の目を覗き込む。
「馬鹿だな、お前は」
「光秀さ……」
「俺はもうとっくにお前に狂ってる、お前に触れても、触れられなくても、俺はおかしくなる」
「……っ」
「どっちにしろおかしいなら、俺はお前に触れていたい。触れたい、お前が……もっと、欲しい」
手を取り、甲にそっと口付けた。
その甘い肌を食めば、それだけで麻薬のように身体が痺れる。
光秀はそのまま舞に告げた。
「俺だけが狂うのは癪(しゃく)だから、お前も狂え。おかしくなってしまえ、その手助けならいくらでもしてやる。お前がおかしくなったって、俺はお前を愛している。だから……安心して壊れろ」