第34章 桜の追憶『狂想恋歌』 / 石田三成
『貴女の事が好きです』
そう言われたのは、桜が綺麗な春の事だった。
とても嬉しかった、だって。
私も、貴方の事が好きだったから。
桜の木の下で、私達は想いを交わし。
そして、約束した。
『来年、また桜が咲いたら……その時は祝言を挙げよう』
誓い合うように唇を重ねて……
また来る春に、想いを寄せたのだ。
「三成君?! どうしたの、こんな時間に」
その姿を見て、舞はびっくりした声を上げた。
晩冬の安土城は、まだまだ寒さが身に染みる。
春の気配はあるものの、芽吹くにはまだ早い。
公務で夜遅くまで安土城にいた三成は、恋仲である舞の顔を見に、部屋を訪れていた。
「夜分遅くにすみません」
「大丈夫だよ」
「もしかしたら寝顔を見れるかなぁと」
「へ?」
「起きていらしたんですね」
天使の笑顔で言われ、舞は頬を染めた。
そして、ちょっと遠慮がちに答える。
「針子の仕事をしていて…寝てなくてごめんね」
(別に謝らなくていいのに……可愛いなぁ)
三成はそう思って、舞の頬に触れた。
長い指を滑らされて、舞がぴくっと反応する。
「顔が真っ赤ですよ、可愛いですね」
「う……可愛く、ないよ」
耳まで真っ赤に染めて……
三成は愛しくて仕方なくて、思わず舞を抱き寄せた。
首筋から舞独特の甘い匂いがする。
それが、どうしようもなく胸を詰まらせた。
「……とても温かい、ですね」
「うん、三成君もあったかいよ」
「なんか……離したくなくなります」
「……っ」
舞が息を詰めて、胸に顔を埋める。
その柔らかい髪を、そっと梳くと、舞は身体をぴくっと震わせた。
(いけませんね、これ以上は……)
三成は心の中で自分に戒めると、舞の頭を上げさせ、額にやんわり口付けた。
「……あまり根詰めちゃ駄目ですよ、おやすみなさい」
そう言って身体を離す。
すると、舞がさっと腕を掴んできた。
「…っ、三成君……っ」
そう言った舞の瞳は潤み。
熱を帯びて、揺れていた。