第32章 弥生月の願い鶴 / 豊臣秀吉
「ほら、出来たぞ」
「……秀吉さん、ぐちゃぐちゃだよ」
「これ以上は無理だ。 あーあ、子が女だったらどうするかな」
「お父さん、不器用って言われるよ」
「……駄目だ、やっぱり練習しよう」
と、秀吉が腕を上げた瞬間。
袖から、何かがひらりと落ちた。
「秀吉さん、落ちたよ」
「あ、悪い」
「これ……折り鶴」
それは、一月前、舞が秀吉に贈った、折り鶴の一つだった。
秀吉はその新緑の折り鶴を舞から受け取り、眩しそうにそれを見つめる、
「御守りだからな、これ」
「うんっ、ありがとう」
「俺がお前にやったやつは?」
「ちゃんとあるよ」
そう言って、舞は懐から桃色の折り鶴を出す。
温泉から帰った後、秀吉が折って舞に渡した物だった。
純白で穢れない『白』
激しく燃えて啼く姿の『赤』
それを併せ持つ舞は『桃色』
そう言って、秀吉は渡した。
愛おしそうに舞の腹を撫で、秀吉は嬉しそうに呟いた。
「元気に出てこいよ」
季節はもう新緑。
清々しい風が、安土城を吹き抜けて行った。
終