第3章 愛しい爪先に口付けを / 伊達政宗
その日、安土城では宴会が開かれていた。
明日から遠征に行く兵士達を労うものだ。
信長、政宗、秀吉、家康、光秀、三成……
それぞれ武将が集まり、またそこの席に舞も呼ばれていた。
(ん……?)
一人手酌で酒を飲んでいた光秀。
舞の様子が少し変なのに気がつき、酌の手が止まる。
ため息ついては、またため息。
一口、膳の飯を口に入れては、またため息。
顔にはくっきり『私悩んでます』と書かれていた。
(やれやれ、世話の焼ける娘だ)
その姿がいたたまれなくなり、杯を一つ余分に持って席を立った。
「どうした舞、悩み事か?」
「あ、光秀さん」
光秀は舞の傍に腰を下ろすと、杯を一つ舞に手渡した。
そして、その杯に酒を少し注ぐ。
「別に悩んでないですよ」
「お前は呆れる程素直だからな、それだけ顔に出るやつも居ない」
そう言われ、舞は片手で頬に触る。
「そ、そんなに解りやすいですか、私」
「解りやす過ぎるな。 大方、政宗とでも喧嘩したんだろう」
光秀の言葉に、杯に口を付けようとしていた舞の手が止まる。
「やれやれ、図星か」
「別に、大した事ではないんですが……」
舞は観念したように、ぽつりぽつりと話し始めた。
要訳すると、政宗は自分が想っている程は想ってくれてないのではないか、自分ばかり気持ちが大きいようで辛い、と言った呆れる程平和な悩みだった。