第1章 臆病なその奥/豊臣秀吉
「じゃあ…私の部屋に来る?」
頬をほんのり染め、はにかむように言った顔が忘れられない。
俺は、舞に試されているのか?
「へぇ、それで惚気に来たんですか」
「いや、自慢しに来たんじゃないのか、秀吉」
家康と政宗が口々に言い、冷ややかな目線を送る。
仕事で偶然居合わせた、家康と政宗をとっ捕まえて、舞とのやり取りを聞かせた。
まあ…惚気になってしまうのか。
「しかし…女自らが男を部屋に誘うとは、舞も大胆だな」
政宗がニヤニヤしながら言う。
「まぁ、女からの誘いを断ったんじゃ、男がすたるな。頑張れよ、秀吉」
「だから、俺と舞はまだ、そんな関係じゃない」
「は? まだ抱いてないのか?」
政宗が目を丸くさせる。
いや、そんな事もない訳では無い。
舞と想いが通じあったあの夜。
野営の天幕と言うとんでもない場所で、舞を抱いたと言う自分なりの失態から。
屋敷に帰ってきて、きちんと抱き直した、と言う経緯もあった。
でも、それからは手を出していない。
清い仲…と言う言葉が正しいのか。
あまりに惚れすぎていると、怖くて手も出せないと言う事を舞に出逢って始めて知った。
しかし…
…あの夜の、あいつはは本当に可愛かったな…
「あ、そんな事もないみたいですよ、政宗さん。 あれは、思い出してる顔ですよ」
「みたいだな。 おーい、秀吉。 帰ってこーい」
政宗に肩を揺さぶられ、はたと我に帰る。