第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
車内。
「……でも何で彼は仲間にも話さなかったのかしら?」
お母さんが唐突に言った。
一緒に後部座席に座っているため、小声での会話も成立するのだ。
「そうだね……。万が一組織が探りを入れて来た時のためじゃない?」
生きていることを話していたら、もし組織がFBIに探りを入れて来た時にバレてしまう。
そう話すと、お母さんは納得したようにしきりに頷いた。
やがて空港に着き、私はお母さんを見送るためにロビーまで来た。もちろんサングラスと帽子で顔は隠している。
「じゃあ、またね、お母さん。また電話する」
「瀬里ちゃんもたまには連絡よこしなさいよ?あ、あと彼にもよろしく言っといて♡」
「もう……」
私が軽くため息をつくと、お母さんはチュッとほっぺにキスを落とした。
「じゃあね瀬里ちゃん。お仕事頑張って!」
「ん、お母さんも元気で。お父さんにもよろしく言っておいてね」
私もお母さんの頬にお別れのキスをし、私達は空港で別れた。
「お別れは済んだ?」
「はい。……さ、お仕事お仕事!」
「ふふ、今日は珍しく乗り気なのね?」
そんなことを言われつつ、私は仕事場に向かった。
休憩時間にメールを見ると、昴さんからメールが入っていた。
「……?」
不思議に思いつつそのメールを開くと、まず目に入って来たのはアルファベット3文字。
『RUM』
ドクンッと心臓が跳ね上がった。
『このコードネーム、聞き覚えないか?』
それだけ書いてあった。
私はドクドクとうるさい心臓を抑えつつ、そのメールを削除した。
「RUM……」
ラム。
ジンやウォッカと並ぶポピュラーな酒だ。
だが、組織の中ではそのコードネームは重要な役割を持つ──
「……組織の……No.2……!」
とうとう動くのか……。あの“ラム”が。
私はこれから始まる組織との本格的な戦いを思い、ゆっくりと目を閉じた。