第20章 漆黒の特急──ミステリートレイン
快斗との電話を切ると、すぐにまた電話が鳴った。
「……?もしもし」
『ルシアンか。今から名古屋まで来い』
「……はぁ?」
電話の相手はジン。
いきなり何てことを言い出すんだ、この男は。
「今から事情聴取なんだけど?ねえ、明日じゃダメなの?」
『じゃあ夜だ。とにかく今日中に来い』
「呼び立てるんじゃなくて、そっちが来てよ」
『いいから来い。これはあの方の命令でもあるんだぜ?』
「……!」
私は表情を強張らせた。あの方の命令……か。
「……分かった、行くわ。近くなったらまた連絡する」
そう言って電話を切った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
事情聴取を終え、私は鈍行と新幹線を駆使して最速で名古屋まで来た。
駅のロータリーには黒いポルシェ356Aが停まっている。
運転席の窓をコンコンッと2回ノックする。と、運転席からウォッカが出て来た。私は彼に促されるまま後部座席に座る。
「どこ行くつもり?」
そう訊くと、ジンが目線だけこちらにやった。
「近くの廃倉庫だ……」
「何するつもり?」
私は後部座席で足を組みながら尋ねる。
「俺もそうだが、あの方も10年前のお前の“踏み絵”は不完全だったと思っている……」
「!?」
私は思わず目を見張った。
強張る私にジンは話し続ける。
「これからお前にまた“踏み絵”を課す……」
「ちょ、ちょっと待って!人殺しはしないって約束のはずよ?それをどうして今さら──」
「出来なければ、今ここでお前に死神を呼ぶ
が──いいのか?」
「……ッ!」
私はぐっと唇を噛んだ。そして悔し紛れに一言。
「……分かった」
やがて車は廃倉庫に着く。そこで私を待っていたのは──
「……この人達?」
柱に手錠で繋がれた男3人。
「ああ……銃はこれを使え」
ジンに手渡された銃にサイレンサーを付ける。
私はぎゅっと目を瞑った。
「……ごめんね」
彼らに謝ったのかすら分からない。
唯一思ったのは、──『人に向けて銃を撃つ時は、相手の鼻先を狙うこと』──それだけだった。
パシュ!
乾いた銃声が3発。それもサイレンサーのお陰で微かにしか聞こえない。
「……あの方に報告しておく。よくやったな、ルシアン」
ジンにポンっと頭を叩かれ、私は唇を強く噛んだ。
口の中に、血の味が広がった。