第5章 近づく心
「す、すまなかった。嫌だっただろ」
「え、いえいえ! そんな事はないです! これは、その不可抗力といいますか……! 生理現象といいますか……!」
自分の目元を拭いながら、アイリーンは笑ってそう答える。
誤魔化しているのは、リヴァイの目から見て明らかだった。
そんな顔で笑うのを、見たくはない。
自然とそう感じたリヴァイは、アイリーンの目元へと手を差し出し、そっと目尻を親指で撫でる。
リヴァイの親指を、少し暖かな雫が濡らした。
二人の視線が、自然と重なる。
先程の意地悪をしている状況と大差無いのに、雰囲気は随分と違う気がした。
「あ、リヴァイ! 来てたんだね!」
突然の大声と、何かが焦げたような異様な臭い。
その二つに、リヴァイとアイリーンは同時にその元凶たる煤だらけのハンジに視線を向けた。
あっけらかんとしている顔。というのは、こういう顔なのだろうな。という程、あっけらかんとした表情のハンジも二人に視線を向けていた。
「あれ? 何かお取り込み中だったかな? 出直す?」
ふふ。とにやけた顔でハンジは口許を隠す。
ハンジの言葉に、アイリーンは今の状況を思い出してまたもや赤面した。
まだ、リヴァイの手が自分の顔に添えられたままのこの状況に。
「こ、これはその……」
「目元にインクが飛んだ。それを取ってやっただけだ。勘違いするなクソ眼鏡。」
どう言い訳をしようかと考えるアイリーンとは裏腹に、リヴァイは至極冷静にそう言い放った。
アイリーンの顔から離れていく、暖かなリヴァイの温もり。
「それより、この報告書。どういうことだ。」
「あちゃ。やっぱり駄目かな?」
「当たり前だ。ふざけているのか。」
「まさか! 僕はいつだって真面目なんだよ!」
「訂正しろ。いつでも変態だとな。」
「ひどいなぁ。でも、この作戦はいいと思うんだけど………」
ソファから立ち上がり、離れていくリヴァイの空気。
此方を見ずに、ハンジに話しかけるリヴァイの顔。
そのどれもが、アイリーンの心を冷たくした。
楽しそうに話し込む二人を見つめるこの状況は、昔と変わらない。
いや、昔どころか今現在でも変わらない筈なのだ。
なのに、何故急にこんなにも寂しく思えるのか。
今度はアイリーンが、自身の胸をぎゅっと握る番だった。