第2章 新選組
文久三年 十二月──。
私…榊弥生は、京を満喫している最中。とは言っても、今は真夜中である。
やはり、遅く着いてしまったか。これでは、泊まるべき宿も見付からぬだろう。
暗闇というのは、何とも言い難い底知れぬ恐怖に襲われる。
カタン…
「ん?」
板か何かが倒れた様な音が響く。私はつい、興味本意で音の方へと近付いた。
「おぉ…」
凄い血の臭いだ。少し通り掛かるだけでもきつい程の。
「一体、何が… !」
振り返ると同時に何者かの刃が首に添えられていた。気配にも全く気付けぬとは、私も落ちたものだ。次からは気を付けねばならんな。
「?…あぁ、新選組であったか」
やけに冷静な自分に驚きつつも、相手の言葉を待った。
新選組。京ではかなり有名の人斬り集団。
その中(といっても少数なのだが)でも、私に矛先を向けていたのは、私より少しだけ背の高そうな、茶髪で癖っ毛の青年だった。
「土方さーん、どうします?この人も見ちゃいましたけど…」
「ちっ…仕方ねぇ、そいつも屯所に連れてくぞ」
土方と言われた者を横目に見てみると、その肩に一人の女子が担がれているのが分かった。
「青年。先程から刃が徐々に斬れ込んできて痛いのだが…」
そう。青年が話をする為に体の方向を僅かに変えた為、首元にある刃が刺さる刺さるで血がだらだらと。
「? あぁ、ごめんね」
と言うと、青年は直ぐに刀を下ろしてくれた。…が、代わりとでも言うのか、右腕を掴まれる。…む、逃げられぬ。
「にしても、刃を向けられても驚かないなんて…お姉さん、何かやってたの?
それとも…」
「何もやっておらぬ、とは言い切れぬが…、」
青年が刀を下ろした直後に歩き始めていた為、私は言葉を一度区切り、その場で足を止めた。
そして、
「青年、君は…」
先程出来た首元の傷を、強く擦る。すると、その下には美しい白い肌のみが見えた。
「君は…鬼を信じるか?」
──降る雪はとても冷たく、照らす月はあまりにも美しかった。