第9章 暴徒
Side of 狡噛
止める俺を無視して縢が駆けていく。
「っ……。くそっ……!!」
俺は縢の背を追った。
無我夢中で走るあいつは、今までとは比べものにならないくらい速く、追いつくのに少し時間をくってしまった……。
「縢…っ!!俺の話を聞け……っ!!」
そのだいぶ低い背の服を掴み、強く引く。
「こうしている間に…悠ちゃんは殺されちゃうかも知れないんだよ……?」
「…いいか?落ち着いてよく聞くんだ。
…奴は、如月を殺さない。…いや、殺せない。」
「え…………。」
少し血走った目をしていた縢の肩を掴み、揺らしながら言う…。
そうすると…正気に戻ったらしく、縢は目を瞬かせた。
「…如月と槙島聖護は過去に既に出会っていた…。
…殺したいのなら…。如月を殺すこと自体が目的なら…その時に殺してる。
今回の奴の目的は……"殺人"ではなく、"誘拐"だろう。
……如月を、連れ去ること……。」
「……悠ちゃんを…誘拐?
…なんで、また……。そんなことを……。」
「俺達と、同じように……。
奴もまた、如月を欲してた……。如月を必要としていたってことだろう……。」
「……俺達と、同じように……。」
俺の放った言葉を、確かめるように復唱する縢。
それから自嘲気味に笑って、こう続けた…。
「はっ……。
俺達も…槙島と同じ人間のクズってことだな……。いや、もしかしたら人間でさえもないのかもしれない……。
……だから、光が欲しかった…。
どうしても、欲しかったんだ……。」
遠くを見つめるその眼差しは、ひどく弱々しく悲しげに見えた…。
いつからだったろうか。
縢が、如月をそんな風に見つめるようになったのは……。