第9章 1864年【後期】 門出の時
「まあ、安心しろ。山南さんと山崎が血眼になって探した置屋だ。無碍な扱いはされねえよ。」
島原は、いわゆる「遊郭街」ではなく、「花街」なのだ。
体を売りに行くわけではない。
その分、芸を磨かねばならず、数えでもう二十である夢主(姉)には、大分入門が遅かった。
夢主(姉)の決意が揺るがないと確信した翌日から、山南はあらゆるツテを、山崎は家出同然で飛び出してきた実家中を巻き込んで、厳格な置屋を探し出した。
当然厳しく稽古もつけてくれ、表向きではそう易々と客には触れさせない、そんな置屋である。
話だけではさすがに齢二十にもなる娘など、しっかりとした置屋であればあるほど、引き受けると言ってはくれない。
一方、すぐに引き受けると言ってくれた所は、下衆な企みも感じられることが多く、山崎も山南も少しの妥協もするわけにいかなかった。
一度断られていた置屋に、山崎の遠縁が直接夢主(姉)を連れて行った所、その置屋の主人がえらく夢主(姉)を気に入ってくれて、なんとかこの話が進んだのだ。
一同の感情が一段落・・・といったところで、土方が再び眉間に皺を寄せて張り詰めた気を放つと、沸いていた広間が一気に緊張感に包まれた。
「次の話に移る。」
土方のその声は低く重たい。幹部達の鋭い視線が再び土方に注目をした。
「夢主(姉)と夢主(妹)についてお前らに話すことがある。これからする話は―――――・・・」
張り詰めた空気の広間に、冬の朝独特のひんやりとした風がさらりと通り抜ける。
その冷たい風が彼らの頬をさすって冷やし、土方から紡がれた通常では有得ない摩訶不思議な話を聞いても、妙な冷静さを保たせた。