第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
夢主(妹)達は天王山へ、夢主(姉)は蛤御門に居る頃。
「あーあ。俺も早く合流したいぜ。」
額の怪我がまだ治らない藤堂は、屯所で大人しくしていた。
「あまり動き回らない方が…」
素振りを始めようとする藤堂に、千鶴は慌てで声をかける。
「あー!動きてえ!千鶴、それ貸せ!」
屯所の床を水拭きしようと、持っていた雑巾を、藤堂に奪われた。
「平助君!」
端から端まで、だだだだとものすごい速さで雑巾がけをする藤堂を心配して声を張り上げるも、藤堂の勢いは止まらない。
「千鶴ちゃん。放っておきなよ。あれくらいした方が、平助の傷にはいいかもよ?」
柱に寄りかかって様子を伺う沖田は、よいしょ、と千鶴の隣に腰を落とした。
「体調はいかがですか?」
物憂げに空を見上げる沖田に声をかけるが、その言葉は無視をされる。
いたたまれなくなった千鶴は、沖田と同じように空を見上げた。
夢主(姉)ちゃん、大丈夫かな?夢主(妹)ちゃんは怪我してないかな…
二人の姿を思い浮かべた。
「千鶴〜?あ!総司!大丈夫か?」
水拭きを一通り終えた藤堂は、雑巾を千鶴に渡しながら、沖田と話す。
この戦いに参加出来なかったという複雑な感情があるのか、二人の表情はやはり晴れない。
「早く良くなるといいですね。」
千鶴はそう言うと、二人の表情は更に切なくなった。
「なあ総司…山南さんがさ…」
藤堂は先刻夢主(姉)が聞いてしまっていた山南の「新撰組」発言を、沖田に話そうとして止めた。
あぶね…千鶴に聞かせるわけにいかねぇもんな。
藤堂は話を引っ込めると、井戸に行ってくる、と、その場を去った。
沖田も藤堂も、自分が留守番の立場になって改めて、山南の苦悩を感じている。
千鶴にも二人の思う事が空気から伝わってくるようで、いてもたってもいられなくなった。
「山南さんにお茶淹れてきますね。」
空を見上げたままの沖田にそう告げると、千鶴は勝手場へ急いだ。
お茶を淹れる千鶴の心には、戦いに紛れてなかなか言い出せない父親探しへの複雑な感情がある。
父様よりも…
今は藤堂の傷が、沖田の具合が、山南の心が心配だった。
新選組に三人が囚われて半年。
彼女達にとって、それぞれに仕事が出来た。
そして、それぞれに膨らむ想いが着実に芽生えていた。