第3章 友の死
カチコチと時計の針が時を刻む音が響く。その静寂に近い空間に響く筆先が紙面を撫でる音。その最後の一枚に事項を書き記したと同時に、俺は奇声に近い声をあげながら筆を投げるように筆置きにおいた。
「終わった! 終わった終わった始末書20枚! 書いたぞこれで満足かよ!!」
所々握り潰しそうになりかけたのを我慢した跡の残る紙を仁之心の文机に叩き付ける。仁之心は形の整った眉の根を片方だけ持ち上げながらたった今書き終えたばかりの書類にさらさらと視線を流し小さく頭を振った。
「誤字脱字ばかりで読めたものじゃないが……まぁいいだろう。退廷を許可しよう」
まぁいいだろう。退廷を許可しよう、だって? 偉そうにしやがって!
「あーあーそれはどうもありがとうございますぅ。じゃああたくしはお先に失礼致しますわ朽木仁之心ふ・く・た・い・ちょ・う!」
ガタガタと不機嫌全開で机の上を片しながら、窓から覗き見えた闇に染まった空を溜め息をもらしながら見つめた。
はぁ、今日は烈っちゃん家で鍋料理をつつくはずだったのになぁ。うまいんだよなぁ烈っちゃんお手製のすき鍋。
仁之心に捕まり、始末書の刑に処された俺。書き終わるまで退廷を許さないと言われて、泣く泣く四番隊長とのご飯の約束を断った。
烈っちゃんにまた何をやらかしたんだって問われたけれど、それはそれ、笑って誤魔化した。
「しゃーない、今日は大人しく帰るとするか」
と、その時。
「ん?」
目端をひらひらとした物がかすめる。それは真っ黒な蝶。ひらひらと俺の頭上を過ぎていくと、仁之心の肩へとひらりと降り立つ。
「地獄蝶?」
死神が伝達の一つとして使う蝶だ。多分仁之心へだろう。
やや間があってから突然ガタリと立ち上がった仁之心に、部屋を出ようとした俺は足をとめた。
「どうした?」
上体だけ振り向かせながら問えば、珍しく焦りを滲ませた仁之心がポツリと小さく口を開く。
"阿蘇隊長が死んだ━━"