第1章 熱帯夜
網戸の窓の向こうから、時折車が通り過ぎる音が聞こえる。
まだ蒸し暑い残暑、学会の発表明けでのんびり出来るとはいえ、香苗はなかなか寝付けないでいた。
冷蔵庫からお茶を取り出す。さっき作ったばかりでぬるいそれは、味が少しばかり薄いが致し方あるまい。
伸びをして、肩から腕をだらりと垂らす。
服の中がむわっとする感覚は、いくら襟元をぱたぱたと動かして空気を通しても拭えない。
コップを片付け、本日何度目かのベッドへダイビング。
タオルケットを端に寄せると、少しひんやりしたシーツが心地いい。
しかしそのうちシーツも香苗の体温が移ってしまい、生ぬるく肌触りが悪くなる。
香苗はまだ冷えたところが無いかと寝返りを打った。
カーテンの隙間から、車のライトがすーっと横切るのが見えた。
目を閉じると、遠ざかる車の音がいつも以上に聞こえた気がした。