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【庭球・BL・海不二】黄昏に映える人

第11章 儚きものが散りゆくは。


「――わぁ、すごい味」

 ふふふ、と笑えばいつもの不二先輩のように見える。

「これ、ありがとう」
「あ……っ」

 俺の前から立ち去ろうとする不二先輩の腕を咄嗟に掴んだ。

「…離して?」
「……嫌っス」
「どうして」
「だから! 昨日!」
 思わず声がデカくなる。
 昨日のことをなかったことにされるのは、何だか腹が立って。
「俺は! 謝ろうと思って…!」
「――謝るようなことを、したの?」
 不二先輩の顔から、笑顔が消えた。
「そ、れは…」
「別に…気にしてないから」

 そう言われても、俺は不二先輩の腕を離せない。
 手を離したら、二度と戻ってこないような気がしたんだ。

「ね…離して」
「…嫌っス」

 同じ問答の繰り返し。
 不二先輩は俯いてしまって、もうその表情を見ることができない。

「……どうして…」
「…俺にも分からないっス…でも…」

 分からない。
 だから言葉が出てこない。
 ただ、不二先輩、アンタが気になるんだ。

「昨日…不二先輩のことばっかり考えてて…」

 不二先輩は俯いたまま。
 でも、俺が掴んでいた腕から力が抜けたような気がした。

「気になるんス。なんて言えばいいのか、わかんないっスけど…気がついたら見てるっていうか…」

 どうして昨日、あんなことをしたのか。
 それはさっぱりわからない。
 でも、今。
 昨日のように――。

「確かめて、いいっスか」
「え?」

 不二先輩の返事を待たずに、俺は昨日と同じように、その腕を引っ張って。
 驚いて顔を上げた不二先輩をそのまま…抱きしめた。

「か、海堂…! 離して…!」

 腕の中から逃れようとするのを力ずくで押さえ込む。

「大人しくしてて下さい」
「ちょ、何言って」
「確かめてるんス」

 昨日、こうしたいと思った。
 今も、こうしたいと思ったから。
 去年までは俺の方が小さかった。
 俺よりも大きい存在だった不二先輩が今、小さく感じる。

「海堂…?」

 不二先輩の声が突然、今までとは違うように響いた。
 ほんの少し、掠れた声。
 耳の奥にぴたりとくっつくような。

 甘い、声だ。

 そう思った途端に俺の心臓がバクバクと高鳴りだした。


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