第16章 揺れる髪先 ♥︎ 〜月島蛍〜
「…本当に送らなくて平気?」
『大丈夫だよ。ありがとう』
玄関先で何度目かのやり取りを交わす。
結木は少しすっきりしたような顔をしていた。
『蛍くん』
「何?」
『…私、前向きに蛍くんとのこと、考えてみるね』
それじゃあ、と結木は笑顔を僕に向けて、帰っていった。
赤いマフラーの上で、ポニーテールが軽快に揺れる。
その後ろ姿を見て、あの日彼女に話しかけたことは、間違っていなかったと思った。
「…心!」
自分でも驚くほどの声が出た。
びっくりした彼女が、振り返る。
『…どうしたの?』
「……やっぱり、送る」
彼女の隣まで行ってから伝えると、呆れたように笑われた。
『蛍くんって、意外に強引なんだね』
「本当にやりたいことに真剣なだけ」
彼女の揺れる髪先から、僕と同じシャンプーの香りがした。
『……蛍くん、本当はね?初めて蛍くんに話しかけられたあの時から、蛍くんのこと好きだったんだよ』
「え?」
『夏希を振ったのは私の方なの』
「何それ、どういう…」
『蛍くんが私のこと、好きなの気付いてた。それに引き寄せられて、わたしもどんどん夏希よりも蛍くんに惹かれたの』
ごめんね、嘘ついて。
ふわりと揺れるポニーテール。
誰かが女の子は小悪魔がいいって言っていたけど…。
「…僕の苦労返してよ」
実際にやられると、かなり大変。
〜fin〜
→あとがき