第10章 Festival1
「あやめ~。」
両手を広げて、近寄ってくる人がいる。
「おはようございます。」
「他人行儀だな。」
お構いなしにハグをされる。
ドイツ生まれの人気声優。
柿原徹也。
初めて会ったのは、通っていた学校だった。
初対面で、握手を求められ…
クラスメイトからは、『セクハラ徹也』と呼ばれてたっけ(笑)
思い出すだけで懐かしい。
そんな彼との挨拶は『握手』から『ハグ』になり今に至る。
「徹也…最近トレーニング、サボってる?」
「は!?」
目を大きく見開いて片眉を上げる。
「いや…何か前よりフワッとしてるから。」
「お前っ…失礼だな。」
ふぅっと大きくため息をつく。
「今度のライブで腹出すんだよ。」
「それで、周りに腹筋バッキバキにしたら引かれるからほどほどにしろって言われてんだよ。」
「俺だって、ガッチガチのトレーニングしたいんだよ!」
「あはは」
「それって、今度のキラフェス?」
「あー。そうだよ。キラフェス知ってんの?」
えぇ。知ってますけど。
人気男性声優が出演する音楽のフェスティバル。
同じ業界で知らない人なんているのかな。
それにね。
何で知ってるかって…。
私が想ってる人が出るんだもん。
「きっとファンの皆さん、キャーキャー言うんでしょうね?」
ニヤッと笑う徹也。
「だろうな?」
「すっごい得意そう。」
「あやめには特別に見せてやろーか?」
「遠慮しときます。」
プイッと顔を背ける。
「ね?徹也?」
「新曲って『進ませろ』だよね?」
「そうだけど。」
「『拝ませろ』とか言われたりして(笑)」
「お前な…」
呆れた顔で私を見る。
「バカにすんなよ?でも…それ面白いな。」
背後から声が掛かる。
「何か楽しそうですね?」