第26章 key
人と話をするのが得意ではない私…。
専門の頃から、先生にも何度も指摘されてきた。
もちろん、この仕事が好きで数は少なくてもお仕事が出来る事が嬉しかった。
レギュラーなんて夢のまた夢。
より多くの経験を積んで、もっと活躍したい。
思いと行動が伴わない自分にイライラする。
気付けば、現場でも下を向いて台本に視線を落としてしまう。
他のキャストと話すなんて…
日に日に孤立を実感する……
どんどん周りが黒い霧に包まれるよう。
一人で歩んで行くなんて…
心細くて、立ちすくんでしまいそう。
*****
手に持つグラスを少し高く上げて見つめられる。
「?」
「ほら!」
催促されてグラスを持つ。
カンッとグラスの縁と縁が音色を奏でる。
綺麗な音色と共に爽やかな風が吹き込むよう…
「これからよろしくね。」
ニコッと微笑まれた瞬間に、私の心にずっと立ちこめていた黒い霧が晴れた気がした。