第26章 key
飲みが始まり30分…
俺は大して話せずにいる。
参ったな…
何話せば良いか分かんねーんだけど…
「木村さんって、お酒強いですよね?」
突然話し掛けられて若干動揺する。
「強いって言うか、好きなだけだよ。」
いつも聞かれたら返す、当たり障りのない答えが自然と口から出てしまう。
「ふぅ~ん。」
そう言って、ソルティ・ドックのグラスの塩を指でなぞって、親指と人差し指を擦り合わせる。
興味は既に、俺から塩に…
俺って『塩』以下?(笑)
パラパラと落ちる塩の粒を目で追うと、白いワンピースの上に。
白地に青の水玉。
「ね?あやめちゃんって、乳酸菌飲料好きなの?」
咄嗟に出た言葉に自分でも驚く。
「?」
「ワンピースが乳酸菌飲料の包装紙みたいだから。」
しどろもどろになりながら、口は勝手に動き出す。
「はぁ!?」
今まで聞いたことの無い声。
これはこれで、得したかも。
カノジョは、自分のワンピースを見つめて絶句。
さすがにやり過ぎたかな…
「もうお中元の時期だよね~。」
「実家に届いたお中元の包装紙がそれだと嬉しかったんだよね。」
子供の頃の懐かしい思い出を思い出す。
「乳酸菌飲料は…私も好き…。薄い方が好み。」
小さな声が横から聞こえた。
「本当?俺もだよ!俺たち気が合うね?」
嬉しくなって、手に持つグラスを少し高く上げて見つめる。
「?」
「ほら!」
催促すると、カノジョもグラスを持つ。
カンッとグラスの縁と縁が音色を奏でる。
「これからよろしくね。」
ニコッと微笑んでみたけど、直ぐに視線は下へ。
気分が良いね。
お中元を毎年贈ってくれた俺の知らない人。
心の底からお礼を言うよ。
ありがとう。