第26章 key
「木村さんって、お酒強いですよね?」
現場のスタッフとキャスト数名で、飲むことになった。
たまたま隣に座った共演者に声を掛ける。
「強いって言うか、好きなだけだよ。」
年の割に芸歴が長い人。
そんな印象。
そして、業界内で聞く情報を頭の引き出しから引き抜いて会話をする私。
こう見えて、一応気を遣ってるんですよ。
目の前にあるソルティ・ドックの塩を指でなぞって、親指と人差し指を擦り合わせる。
「ふぅ~ん。」
「ね?あやめちゃんって、乳酸菌飲料好きなの?」
「?」
「ワンピースが乳酸菌飲料の包装紙みたいだから。」
「はぁ!?」
ふと自分のワンピースを確認。
白地に青の小さなドット。
確かに…
某乳酸菌飲料の包装紙みたい…
「もうお中元の時期だよね~。」
「実家に届いたお中元の包装紙がそれだと嬉しかったんだよね。」
「………。」
目をキラキラさせながら、遠くを見つめる瞳。
ちょっと可愛いと思ってしまったのは不覚…。
「乳酸菌飲料は…私も好き…。薄い方が好み。」
「本当?俺もだよ!俺たち気が合うね?」
手に持つグラスを少し高く上げてこちらを見つめる。
「?」
「ほら!」
催促されて、私もグラスを持つ。
カンッとグラスの縁と縁が音色を奏でる。
「これからよろしくね。」
ニコッと微笑む笑顔に私はすぐに視線を外した。