第1章 朧月夜
「小一の頃の…ホンマに入学して一ヶ月も経たへん内から孤立してしもたらしいわ。それが今でも続いとうってカンジかしらねぇ…」
小春の声が空気に溶けると、部室が完全な無音に包まれた。
彼の発言一つ一つが、白石たちに小学生の彼女の日常を思い描かせる。
自分たちも昔から見せられた光景だったから、まるで現場を見たかのように鮮明な光景が頭に浮かんでしまうのだ。
肌にまとわり付く空気が、鎧のように重苦しく感じた頃、終始着替えの手を止めずに話を聞いていた財前の口から、ため息が流れた。
「ま、どこにでも居りますよね、そういうしょーもないクズ。くだらなすぎますわ」
いつもの気怠げな声が沈黙を破り、重い空気を一瞬で取り払う。
その瞬間、小春の表情にいつもの生き生きした輝きがパッと戻ってくる。
「アラ! 光が賛成してくれるやなんて! 嬉しいわぁ~!」
「別に一般論言うただけで先輩に賛成したわけやないんでこっち来んとって下さい」
「お前小春に何ちゅー言い方しとんねん! ちょっとそこ座れ」
「当たり前のように割って入って来んとって下さい。ホンマキモイわ」
三人のやり取りを中心に、静かだった部室にいつもの喧しいBGMが舞い戻る。
そのまま、居酒屋のようにけたたましくなってゆく目の前の光景は、まさしく通常運転そのもので。
最早、この部屋の誰も今しがた話題にポッと出できたような他のクラスの女子どころではなくなっているだろう。
体に残っている空気を全て搾り出す勢いでため息をつく。彼らの所に向かう白石の足取りは決して軽くはなかった。