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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼


❦ 和也Side ❦



「いつまでも泣いてちゃ仕事になんないよ? しっかりしな」


「っく……すみませんっ…雅紀さん……」


眉を下げて何とも言えない面持ちで
涙の止まらない僕を、雅紀さんが優しく諭す


「どんなことがあっても屈するなよ、和也」

「…はい、」



今日は水揚げ
見世に並び、初めて客を取る日だ



「そろそろ時間だ
俺の教えた通りに出来るな?」

唇を噛みしめて頷くと
紅い襦袢の上から山吹色の振袖に袖を通す



「良く似合ってるよ」

「…有難う御座います、」


どんな客が来るやもわからない
不安で胸が押し潰されそうになっている僕を見て
雅紀さんがその唇を指の腹で一撫でする


「おまじない」

「おまじない…?」


ニコリ、と笑うと僕の手を引いた


「今日は和也の水揚げだからね
特別だよ?」


「あっ…」

軽く抱き寄せられると
雅紀さんの胸の中にすっぽりと包まれた

茶色く長い髪が
頬を掠める


「雅紀さ… んっ、」


僕の唇に
雅紀さんの唇が重なった




僕が遊艶楼に売られて来た時
今日からお付人をさせていただきます、と頭を下げたのが雅紀さんだった

右も左も何もわからない僕に
一から十まで指南してくれた、元、お付人…

僕を初めて抱いたのも雅紀さんだった


人手が足りないらしく
一通りの指南を終えた後
雅紀さんは楼主に言い付けられて番頭になった



「失礼します」


「慧」

「和也様、お支度はお済みでしょうか」


「はい」


朱く引いた口紅は
現実との境界線


化粧部屋を出て、部屋子の慧を従え
雅紀さんの後に続いた




見世に上がると
皆がチラリとこちらを伺う


「…和也です
本日が水揚げとなります
宜しくお願い申し上げます」


同じ魅陰と言えども、そこはライバル
ツンとあからさまに顔を背ける者もあれば
ニコリと会釈してくれる者も居た


「和也様、こちらに」


言われた通りに見世の座敷に座ると
紅い格子から見る景色はなんとも滑稽だった
客人から見れば檻に入れられた囚われの身
此方から見れば
客人の方が檻に入れられた猛獣なのだ




― チリン チリン ―




来客を告げる鈴の音が響くと
つい先程までツンとしていた魅陰達が色めき立ち
白い肩を出して誘うように猫撫で声をあげた
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